お似合いの二人





「はぁ・・・」

真田は深いため息を吐いた。

それは朝から続き、放課後の部活においてもずっとだった。

当然のごとくレギュラーたちは恐ろしくもあり、驚きもあり、誰一人聞くに聞けない状況であった。

「真田・・・副部長・・・どうかしたんスか?」

赤也が恐る恐る聞いてみたが。

「・・・あぁ、赤也か。すまないな。俺がこうでは部活にも支障がでるな。たるんでるな・・・」

いつもと違う雰囲気の中、仁王は一人笑みをこぼしていた。

この状況を愉しんでいるように。

「柳生、みてみんしゃい。当の本人が来たようだ・・・」

向こうから柳が歩いてきた。だが、雰囲気がいつもと違う。少し怖い気がするが。

「柳先輩、副部長がおかしいっスよ。原因知ってます?」

キッと柳は赤也を睨む。

「原因?それは本人から聞けばいいだろう。俺には関係がない」

そういうと柳はラケットを持ち、

「仁王、相手をしてくれるか?」

仁王はにやりと笑みを浮かべ。

「達人は機嫌が悪いようじゃな」

二人は空いているコートへと向かった。

しばらくして、仁王と柳の打ち合いが始まった。

「おや、今日の柳君は変ですね」

「・・・ほんとっスね。珍しく力技っス・・・」

柳生と赤也が柳のプレイを見てそう言った。

真田も他のコートで練習していたが、合間をぬって柳のプレイを見ていた。

「・・・蓮ニ」

真田は再びため息を吐いた。



そんな気味の悪い日が数日続いた。

「本当にどうしたんスかね?」

その赤也のぼやきに仁王が答えた。

「あの二人喧嘩しちょるよ」

仁王は本当に楽しそうに言った。驚いたのは赤也だった。

「あのふたり、喧嘩するんスか?」

「珍しいですが、可能性がないわけではありませんからね」

柳生が冷静に眼鏡を直しながら、言った。

「うへぇ〜じゃあ、仲直りするまで、ずっとこの調子かよ。勘弁」

ブン太がガムを噛みなおし、すごく嫌そうに口を曲げる。

「柳はともかく、真田が不気味だな・・・」

ジャッカルの言葉に皆全員うなずいた。そして・・・秘密の作戦会議が開かれた。



「真田、赤也が話あるってさ。部室にいるぜ」

部活の合間。休憩中に、コートにいる真田にブン太はそう言った。

真田は気乗りしなかったが、とりあえず部室に向かった。その頃、部室には柳生と柳がいた。

「柳君、少し席を外しますね」

柳生はそういって、部室を出て行った。外に出ると真田に出くわした。

「柳生、赤也は中か?」

「えぇ、いますよ」

柳生はそしらぬ顔をした。

ガチャリ

「赤也、話とは何だ?」

真田はそういって部室の戸をあけた。その声に中にいた柳が思わず振り向いた。

「げ・・・弦一郎・・・」

「蓮ニ・・・」

真田は図られたと気づき、笑みをこぼした。

「赤也は・・?」

入り口からあまり中に入らずにいる真田は気まずい雰囲気の中、柳に聞いた。

「奇遇だな。俺も赤也に呼ばれたのだが・・・それよりも・・・立ってないで座ったらどうだ」

「あぁ。そうだな」

真田は言われるまま、近くの椅子に腰掛けた。

見慣れた光景、見慣れた顔。ただ、気まずいだけだった。

数日前、些細なことで喧嘩をした。いや、喧嘩というものなのかどうか。

ただ・・・自分に落ち度があったのなら謝りたいと真田は思った。

話すタイミングやきっかけがないまま、時が過ぎてしまったが。

「蓮ニ・・・すまなかった。あのことで怒っているのなら・・・」

突然の真田からの詫び。柳は当然びっくりした。

「もういいんだ。弦一郎。俺の方こそ、すまなかった。大人気なかった・・・」

その一言で二人は仲直りした。



部室の外で二人のやり取りを聞き耳を立てていたレギュラーは声を抑えてヤッターとガッツポーズをしていた。

「結局、喧嘩の原因はなんだったんスかねー」

ふと、赤也がそうつぶやいた。ブン太もジャッカルも柳生もきになっていたらしい。

「俺知っちょるよ」

仁王がそう言った。柳生は嫌な予感がした。

「真田が柳に着物が似合うといったんじゃと」




数日前、真田がボソッとつぶやいた言葉。

――蓮ニは着物が似合いそうだ――

それを仁王が聞き付けて、

『真田、これを柳に渡してくれんか、似合うと思う』
渡されたのは紙袋。

入っていたのは女性物の着物。真田は躊躇しながらもそれを、柳と会うときに持っていったそうで。

「・・・また・・・貴方ですか。仁王君っ!」

柳生は肩を震わせていた。

「・・・確かに怒るな・・・そりゃ」

「ははは・・・副部長らしいっスね」

柳生に追いかけられる仁王と他三人は笑みをこぼしていた。



「蓮ニ・・・無理ならいいんだが」

真田邸にて柳が遊びに来ていた。

「あの時はびっくりしたのだが、冷静に考えると・・・お前が望むならいいかなと思ったんだ」

柳が着ているのは女性物の着物。

「・・・蓮ニ・・・綺麗だ」

真田は静かに柳を抱きしめるとそっと口付けをした。

「弦一郎・・・」

「俺の前だけだ・・・」

おわり